住宅(建物)のメンテナンスの基本は塗装です。

住宅の外壁や屋根の塗装は太陽光の紫外線や雨などの水から建物を守る保護塗膜です。
この保護塗膜は永久的な寿命があるわけではなく、経年とともに劣化し、美観が、損なわれたり、水の浸入などで外壁や屋根本体の寿命を縮めたりします。
「塗膜の対応年数」は一般に10年~12年と言われています(フッ素樹脂塗料、シリコン樹脂塗料、アクリル樹脂塗料 等全含む)が、建物の立地条件や塗装してある部位によって「塗膜の対応年数」は変わってきますので、定期的に診断し、早めの対処をする事が大切です。

材料

外壁や屋根の塗装材料で有名なのは「アクリル樹脂塗料」「ウレタン樹脂塗料」「シリコン樹脂塗料」「フッ素樹脂塗料」または「セラミック配合塗料」あたりだと思います。

アクリル樹脂塗料

 アクリル樹脂はすべての塗装材料に配合されています。「ウレタン樹脂塗料」「シリコン樹脂塗料」「フッ素樹脂塗料」または「セラミック配合塗料」に色を付ける為や、ツヤを持たせる為や、塗膜表面をベタ付かせない為や、塗った塗料が乾く前に水のように流れ落ちないように配合されています。

 この「アクリル」は安価な耐候性の悪い材質だと思われがちですが、近年のラジカル制御の技術で、強度や表面硬度などはシリコン樹脂塗料やフッ素樹脂塗料以上の物があり、水族館の水槽や、ガラスなどでは強度の足りない窓などにも使用されている優れた樹脂ですので、アクリル樹脂塗料が劣った塗装材料だと言う間違った認識は解消されつつ有ります。

ウレタン樹脂塗料

 つい15年前までは「ウレタン樹脂塗料」が外壁塗装材料の主流でしたが、「アクリル樹脂塗料」や「シリコン樹脂塗料」などに比べ耐候性が劣るために現在はあまり使用されなくなりましたが、塗膜が他の塗料に比べて肉厚な物ですから、重防食以外の鉄部塗装(例えば住宅の鉄部フェンスなどの塗装)には向いた塗料です。また、屋上防水などの防水塗材としてウレタン塗膜独特の緻密生が重宝されています。防水層保護のための保護塗装は、「アクリル」と共同重合された「アクリルウレタン」が使用されます。

シリコン樹脂塗料

「「シリコン樹脂塗料」は塗料の中にシリコンの樹脂が入って耐候性が良く15年以上にわたって塗膜が綺麗な状態を保つ」」とよく言われます。

確かに旧来の単純なアクリル樹脂塗料に比べて耐候性が良いことは間違いないですが、「シリコン」とは日本語で言うところの「ケイ素(化学式Si)」の事で、鉱物の結晶化した物はガラスの原材料で天然の水晶もかなりの「ケイ素」を含んでおり、塗料にしたら固く汚れにくいイメージですが、塗装材料に使用している「シリコン」は分りやすく言うと「珪藻」で主に「珪藻土」の主成分と同等の物だと思って間違いないものだと思います。

また、ミネラルウォーターに入っている「シリカ」も「シリコン」と同じ意味で、これは主に「稲のもみ殻」から抽出された物が多いです。これらはすべて「ケイ素」と思われがちですが、化学式ですと「Si」と「SiO2」の違いがある別物と思ってください。

塗料に使用されている「シリコン」ですが、塗料ですから乾燥する前は当然液体です。乾燥もシンナーが揮発した後に真溶剤を揮発させエマルション乾燥する単純な乾燥形態ですのでここで鉱物由来の「ガラス」のような強靱な塗膜を期待することは出来ません。

ましてや塗膜に弾力を持たせる為の「硬化剤」やわざと固い塗膜にするための「硬化剤」などを混入しますと、よりいっそう「シリコン(Si)」の性質からかけ離れた塗膜になることは間違いありません。

また、塗膜乾燥後のラジカルも「硬化剤」や塗膜に残る「添加剤」により制御できない状態になりやすいと推測できますので、カタログ通りの性能は発揮出来ないのではないかと思われます。

現在外壁塗装用のシリコン樹脂塗料は、「アクリル」と共同重合された「アクリルシリコン」が使用されます。

フッ素樹脂塗料

 「フッ素樹脂塗料は20年近く外壁が綺麗だ」と言う人がいますが、実はそうでもないかも知れません。

塗装の基本は、「同じ材料を2回塗りして仕上げる」のが基本ですが、フッ素樹脂塗料はとても高額ですので、最終上塗りと中塗りとが違う塗材が多いです。これは結局「1回塗り」でしか有りません。

「1回塗り」ですと、施工中に塗膜に紛れ込んだ「施工ピンホール」がそのままの状態になりますので、塗装素地(下地)を保護しきれずに、鉄部なら発錆、窯業系サイディングなどなら含水の原因になりかねません。

「最終上塗りは1回だけど、その下塗りでウレタンなどを使用して塗膜をしっかりさせているから大丈夫」という塗材メーカーも有りますが、塗装をする側の話として、「出角、入り隅があったり天井や窓枠との取り合いがあり、平面でない住宅の外壁をを、ムラなく1回塗りで必用な塗布量を均一に満遍なく塗り残しもなく塗装出来る職人は居ない。1回塗りは1回塗りで、それ以上でもそれ以下でもない。」と言うことが先に立ちます。

外壁のフッ素樹脂塗装も同じ材料を2回塗りする仕様の塗装材料もありますので、アンテナを張ってみてください。

また、フッ素樹脂塗料といえども長期にわたって表面が比較的に綺麗であるだけの事ですので、下地を保護すると言う観点から言うと「アクリル樹脂塗料」「ウレタン樹脂塗料」「シリコン樹脂塗料」と全く差はありません。窯業系サイディングの目地シールのメンテナンス時期は5年毎、モルタル壁のクラックなどは7年毎、コンクリート壁は10年毎にメンテナンスが必用だとされていますので、表面のツヤにだけ目が行き、肝心な下地の保護がおろそかにならないように気を付けて頂きたいと思います。

セラミック複合塗料

セラミック複合塗料は、おおよそにして2液型の塗料です。2液型の塗料は前述のように「硬化剤」や塗膜に残る「添加剤」が塗装後3年もすると、すべて蒸発してなくなってしまいますので、その後塗膜の親水性やセラミックが表面に出てきて塗膜を保護すると言う性質は失われます。これはウレタン樹脂塗料でもシリコン樹脂塗料でもフッ素樹脂塗料同じ現象が起まいます。

また、セラミック複合塗料は塗膜形成直後から表面が親水性になる場合が多いですが、表面が親水性の塗膜は水をはじかないために鉄部塗装には向きませんし、2液型の塗料は塗膜構造が緻密過ぎるために木部に塗装しますと木部の湿気調整が出来なくなり、縮みや脹れを引き起こす場合が多いです。また、3年位しますと、「硬化剤」や「添加剤」が完全に蒸発してしまい、塗膜が著しく縮みますので、特に建物の入り隅にひび割れを生じやすい特徴が有ります。

油性塗料と水性塗料の特徴

油性塗料の特徴

「油性塗料」とは真溶剤や希釈溶剤に油(石油系・植物系)の物を使用している塗料の総称です。一般に緻密な塗膜を形成し、素地に含浸して(染みこんで)素地と塗膜が一体となり素地を劣化から守る機能があります。

水性塗料の特徴

「水性塗料」とは真溶剤や希釈溶剤に水(一部アルコール含)を使用した塗料の総称です。

水性塗料の仕上げ材でツヤのある物は、シリコン樹脂系塗料であれフッ素樹脂系のものであれ、乾燥後の塗膜が「酢酸ビニール」やその複合物の「アクリル」を主とした「ビニール皮膜」になります。これはビニールですので素地に含浸せずに素地の表面にくっついているだけに過ぎませんので、素地との剥がれやフクレが生じやすく、かつ次回の塗装の際に油性塗料を使用してもビニール膜が邪魔をするために「素地に含浸して素地と塗膜が一体になり素地を劣化から守る」と言う事が出来なくなりますので、使用する際はそのことを考慮する必用があります。

また、「アクリル系」「シリコン系」「フッ素系」塗料各種類の油性の物と水性の物とを比較した場合、水性の塗料の方が耐候性にあまり期待が持てません。

エマルション塗料

「エマルション塗料」とは水の中に塗料の分子が拡散していている状態(乳濁液)のことで、それを水の揮発の勢いで衝突させ一連の塗膜を形成する物を「エマルション塗料」と言い、その乾燥を「エマルション乾燥」と言います。間違って「エマルション樹脂塗料」と言われますが、それは間違った言葉です。「エマルション」とは塗料の液体時の状態のことですので、「エマルション樹脂塗料」と言う物は世界中のどこを探してもありません。「エマルション塗料」に使用されている樹脂はおおよそ「酢酸ビニル」またはその複合物の「アクリル」が多いです。

水性の塗料一般はすべてこの「エマルション乾燥」をする「エマルジョン塗料」です。

「化粧品」の「乳液」や食べる「マヨネーズ」などがこの「エマルション」の状態です。

非水エマルション塗料

「非水エマルション塗料」は水性以外の真溶剤や揮発溶剤を使用したエマルション塗料の事です。一般に「NAD塗料」とも言われます。「NAD」とは「ノン・アクエリアス・ディスバージョン」という英語(日本語で「非水エマルション」)の略語です。

外壁塗材に使用する「アクリル樹脂塗料」「シリコン樹脂塗料」「フッ素樹脂塗料」の初期乾燥形態は全てこの「NAD」に寄ります。

天井などに使用する「非水エマルション塗料」は外壁材のそれとは乾燥後の塗膜形態が違い塗料の分子が大きいために緻密に凝縮した塗膜を作らないので、表面はツヤがなく、通気性に優れますが、撥水性や水の非透過性にあまり期待が持てないために窯業系サイディングなどの塗装には向きません。

塗料のまとめ

結論として塗り替えする時の塗料選定は、何十年も塗料を自分で塗ってきて、10年や20年、出来れば30年以上にわたり、自分が塗ってきたその建物を観察してきた職人は経験上、さまざまな事を知っているのと思われるので、その職人に塗り替え時の塗料選定を相談するのが良いと思われます。

※一級技能士検定試験には実技試験のほか、学科試験があります。一級技能士試験を合格した職人は上記の事は試験に出る範囲なので良く勉強していますから、できれば一級技能士試験に合格した職人に相談してみてください。

積算

塗り替え工事の積算とは、塗り替え工事に必要な費用を予測し、工事にかかる全体の費用を積み上げて算出することです。

塗り替え工事に必要な費用はおおよそ

  1. 仮設代金(足場・メッシュシート養生・朝顔養生)など
  2. 外壁や屋根の素地調整代金
    (水洗い等清掃・目地シール打ち替え等補修・素地補強・ひび割れ処理)など
  3. 外壁・屋根塗装代金(天井・庇・手摺含)など
  4. 付帯物塗装代金(雨樋・雨戸・戸袋)など
  5. 近隣挨拶などの管理経費など

    が主な項目となると思われます。

     建設工事の精密な単価積算可能最低数量は300㎡以上と定義されていますので、一般住宅の場合おおよそ、足場が150㎡~250㎡、屋根が70㎡~180㎡、外壁が100㎡~200㎡位ですので精密な単価積算が可能ではありません。

     よって、材料費(副資材費含)+作業手間代金(工数計算・歩掛け計算など)+利益の計を面積や住宅の建坪数量で割った物がおおよその単価となっています。

     これは各々の塗り替え業者が独自の金額で計算しますので、正解という物がありません。

    •  外壁の塗装より素地調整の方が住宅改修の要だと思っている業者
    •  素地調整はそこそこで外壁塗装の材料にこだわる業者
    •  素地調整も頑張るけど、外壁塗装の材料よりも塗装行為(塗り方)にこだわる業者
    •  家族経営の業者・下請けに工事を依頼する業者・職人を年中数人雇用している業者

    などでも事情と考え方が様々ですので10社の見積りを取ったら、「10社共に金額と塗装材料が違う」と言うことが多々あります。では何を持って「業者選定」をするかですが、「餅は餅屋」と言う格言もあるとおり、「塗装は塗装屋」に任せて頂けないでしょうか。

     「いや最近、餅屋は無い。餅は餅屋ではなくスーパーマーケットで売っているのが当たり前」と思われる方もあるかも知れませんが、スーパーマーケットで売っている餅は餅屋が作った餅でして、「スーパーマーケットの人が ついた餅」ではありません。

     お米も同じ事で、スーパーマーケットで売っていますがスーパーマーケットが作った餅ではなく農家が作ったお米です。

     スーパーマーケットの場合、仕入れと販売は「大量仕入れ、大量納品」と食品表示法によるルールが確立されている事で消費者も信頼置ける商品を手にすることが出来ますし、スーパーマーケットよりも商品の生産者(例えば「サトウのお餅」とか、「魚沼産コシヒカリ」)などのブランドで消費者はその商品を安心して購入しているのだと思いますが、家の塗り替え工事は商品の製作者(下請け業者)がどこの誰なのか分りませんし、「スーパーマーケット(営業会社)」で「餅や米(最終施工下請け業者)」を購入するのとは違い「義務化されたルール」がありませんので同じには考えない方が良いような気がします。

    ※たまに塗装の職人ではない人が下請けで住宅の塗り替えを営業会社から請け負っている場合もあるみたいです。